小説、漫画、ゲーム、アニメなどを使った英語勉強法


荘加 大祐(Daisuke Shoka)
まだ英語を勉強する意味はあるのか

いきなりなんですけど、とりあえずこれ↑を見てください。

これは様々なコンテンツ(主にエンタメ系)を「どれが英語の勉強に向いているか」という視点でマッピングしたものです。

たしか作ったのは5年前くらいだったと思うのですが、「いくらなんでも内容がマニアックすぎて出口がない」ということでお蔵入りになりました。

このまま日の目を見ずに終わるところでしたが、マニアックなことを書いてもOKなブログというメディアを手に入れたので、しばらくこのネタでエントリーを書いていきたいと思います。

とりあえず今回は、このマトリックスの背景にある思想と、マトリックスの見方を説明したいと思います。

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背景

まず、なんでこんなアレなものを作ってしまったのかを説明しましょう。

とりあえず、「学習用の教材ではないコンテンツを使った英語学習」のことを「コンテンツ学習」と呼ぶことにします。そして、コンテンツ学習に使えるコンテンツのことを「コンテンツ教材」と呼ぶことにします。上のスライドは、コンテンツ教材を分類したものだということです。

コンテンツ学習はあらゆるレベルの英語学習者にオススメできますが、特に、伸び悩んでいる中上級者くらいの人(時間をかければ、ほとんどの英文の意味をとれる人)にオススメしたいです。コンテンツ学習によって、インプットする英語の量を爆発的に増やせるからです。

インプットを増やすことは、英語力を一定以上のレベルに引き上げるための絶対条件です。理由を丁寧に説明すると長くなるのでざっくりやりますが、英語を習得するには「意味の理解できるインプット」を大量に繰り返す必要があります。そのプロセスを通じて、「英語という言語の感覚」を自分の内部に育てるしかないのです。いわゆる、「英語脳」、「英語細胞」などと呼ばれるものですね。

これは、僕たちが特に学んだわけでもないのに日本語の助詞を使い分けられることを考えると理解しやすいでしょう。僕たちがこれを何も考えずにできるのは、僕たちの中に日本語細胞があるからです。

同じような感覚を、英語に対しても育てる必要があります。そして、そのためには英語を大量にインプットするしかありません。文法を学んで精読できるようになることももちろん大事ですが、それだけでは全く足りないのです。

というわけで、それなりに英語が読めるようになった段階で、インプットの量を増やすべきです。

しかし、ここで一つ問題があります。普通の英語学習用の教材は大量インプットには向かないのです。理由はシンプルで、内容がつまらない上に、英語の絶対量が少なすぎるからです。これではどうにもなりません。

そこで普通のコンテンツの出番なんですね。「そこそこ意味がとれて、かつ内容が面白い」コンテンツを見つけることができれば、大量インプットを成し遂げることができます。これがコンテンツ学習の主旨です。

コンテンツ学習のメリット

次に、コンテンツ学習のメリットとデメリットを説明しておきましょう。まずはメリットからです。

コンテンツ学習の最大のメリットは、勉強時間(英語に触れる時間)を大幅に増やせることです。さっき述べたとおりですね。

それも当然で、これ、半分は勉強じゃないですからね。ゲームや漫画を使うなら、遊んでるみたいなもんです。英語の問題集を使って3時間勉強するのは相当な決意と集中力を必要としますが、ゲームや漫画なら3時間くらい余裕でしょう。僕はゲームなら10時間でもいけます(ただし、コンテンツ学習に取り組み始めたばかりのころは、30分くらいでクタクタになりました)。

つまり、コンテンツ学習なら、「英語に触れる時間を現在の3倍にする」というような非現実的な目標を達成することが可能になるわけです。僕の経験上、留学せずにこんな目標を達成するにはコンテンツ学習に頼るしかありません。 英語力は投入した時間で決まる側面がありますので、苦労せずに勉強時間を増やせるのはとてつもないメリットです。

また、生の、感情的な英語に触れることができるということも大きなメリットです。とりあえずこれを見てください。全部じゃなくて、10秒くらいでオッケーです。

この、“Stay back. This is a fight for me and me alone(手を出すな。これは、僕自身との戦いだ)“はシビれました。“and me alone”のとこがいいの、伝わりますかね。

「それはお前がFFおじさんだからだろ」というツッコミはもっともなのですが、ポイントはそこじゃなくて、教材の中に出てくる英語で、こんな風にシビれることはないってことなんです。

どうせ英語を勉強するなら、楽しく勉強したいじゃないですか。そのためには、「英語で感動する」って、すごく大事なことだと思います。最後には英語で議論したり、感動するために英語を勉強してるわけですので。それを早めに体験しないと、勉強を楽しめないですよね。

普通の教材には、学習目的に特化した無機質な英語が並んでいます。そのおかげで(ある文法を覚えるなどの)目的が効率的に達成できるというメリットはあるのですが、一方で英語の勉強がつまらなくなりがちです。コンテンツ教材ではもっと有機的な英語に触れられますから、英語が楽しくなります。これもコンテンツ学習の大きなメリットだと思います。

最後のメリットは、自信がつくことです。自分が英語「の」勉強をしたのではなく、英語「で」何かをしたというのは、自分の英語力が一段違うステージに上がったような気にさせてくれるんですね。小説を一冊読み切った日には、もう英語ペラペラになったような気持ちになりますよ。

コンテンツ学習のデメリット

次に、コンテンツ学習のデメリットです。

最も大きいデメリットは、これは最も効率的な英語学習ではないということでしょうか。これはデメリットというよりは弱点なんですけど、声を大にして言っておいた方がいいことだと思います。

英語力を上げるために重要なのは「意味のとれるインプット」を大量に繰り返すことであって、コンテンツ学習はその手段に過ぎません。ということは、自分がなんとか意味をとれるくらいのレベルの英文で、試験に出やすい単語が散りばめられており、そこに日本語訳や単語帳までついていて、さらにCDもついているような教材があるなら、それを繰り返した方が効率的です。

で、そんな教材が既にあるんですね。たとえばこれ↓です。

なので、コンテンツ学習に手を出す前に、このような学習教材を1日1時間やる方がよっぽど大事です。シャドーイング(音声を聞きながら自分でも発声するトレーニング)を30分やって、残りの30分で教材を見ながら意味の取れなかった文や単語を確認する。これを3ヵ月繰り返せば、それだけでかなりマシになると思います。

ただ、この教材を毎日3時間やれるかと言われると、それは人間をやめないと無理だというのが僕の意見です。ストイックすぎて、長続きしないでしょう。

そこでコンテンツ学習の出番なわけですよ。先ほど述べたように、娯楽なら時間が稼げます。ストイックな教材からさらに勉強時間をプラスしたいときに、自分が好きなコンテンツに頼るといいと思います。最も効率的ではなくても、英語に触れていることに変わりはありませんからね。

言い方を換えると、普通の教材から逃げる言い訳にコンテンツ学習を使うべきではありません。そうじゃなくて、普段しょーもないことをやってしまう時間を、コンテンツ学習に置き換えるのが正しい発想です。たとえば、どうしても電車の中でソシャゲをやってしまうなら、いっそのこと英語のパッケージゲームをやるとか、そういう感じですね。

話をデメリットに戻しましょう。学習教材よりもコストがかかることは、明らかなデメリットです。まあ、上手くやればコストを抑えることも可能ですが、普通の学習教材ほど安上がりにはならないです。コストに関しては、個々のコンテンツ教材を紹介するときに、平均的な価格や、コストを抑える方法を紹介しますね。

というわけで、良いことばかりなわけではないですが、本気で英語を何とかしたいと思っている人には、僕はコンテンツ学習を自信を持ってオススメします。

コンテンツ教材の選択をどうするか

コンテンツ学習で難しいのは、コンテンツ教材の選択です。一言に「英語コンテンツ」と言っても、小説からゲームまで、様々なものがあります。どれを選べばいいか分かりません。

もちろん、基本は「自分が楽しんで続けられるものを選ぶ」ということでOKです。続けられて、英語に触れる時間が稼げることがコンテンツ学習のメリットなので、そこが成立しないコンテンツ教材を選ぶ理由はありません。

しかし、ほぼすべてのコンテンツ教材を試した僕の経験上、「楽しめるか」という視点だけでコンテンツ教材を選ぶと、かなり非効率な勉強をするハメになります

というわけで、コンテンツ教材を選ぶ上で「楽しめるか」以外の視点を加えようじゃないか、というのが冒頭のマトリックスを作った動機です。

では、どんな視点で整理したのか、説明していきましょう。

縦軸:時間効率

まず、縦軸は時間効率、すなわち、「単位時間あたり、どれだけ英語をインプットできるか」という視点です。

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時間効率が良いコンテンツ教材の代表例は小説です。小説では、読んでいる間ずっと文字を追い続けることになります。つまり、小説では常に自分にとっての限界ペースで英語をインプットし続けることが可能なわけです。

一方、映画やドラマの時間効率は悪いです。作品の最中、出演者がずっと英語を話しているということはありえないからです。風景描写やアクションシーンなどでは、英語のインプットはできません。

時間効率が重要な視点であることは説明するまでもないでしょう。効率よく勉強するに越したことはないからです。

ところが、コンテンツ学習をしていると、この「効率」という視点が曖昧になってくるんですよ。勉強には効率を求めるものですが、娯楽には効率を求めないからです。

娯楽コンテンツを使っているうちに、これは娯楽なのか勉強なのかが曖昧になってきます。それは英語細胞が育ってきている証拠なので良いサインなわけですが、娯楽100%になってしまうなら、別に日本語でやればいいですよね。どこかで、「これは自分の英語力の向上に役立っているか?」という視点を忘れないようにしたいものです。

失敗例を紹介しておきましょう。僕はファイナルファンタジー3の英語版を海外サイトから輸入したんですが、これは途中から全く英語の勉強にはなりませんでした。レベルを99にしたり、最強装備を揃えたりする間、新しい英語は全く出てきませんからね。普通にゲームをやりこんでいるだけでした。まあ、全く後悔はしていないわけですが、英語の勉強としてはイマイチでしたね(ファイナルファンタジーなら、先ほどの動画で紹介した4の方がオススメです)。

というわけで、どっぷりコンテンツにハマりこむと、効率が見えなくなります。最初にコンテンツ教材を選ぶタイミングで、時間効率を考えておくといいと思います。

ただ、コンテンツ学習そのものが、時間に余裕があるときじゃないと機能しにくいということは覚えておいてください。この勉強法は英語力の根底を鍛えるものなので、分かりやすい効果が即座に出るようなものではないんですね。あと、勉強っぽくならないので、プレッシャーがかかっている状況では普通の教材に手を出したくなります。

たとえば、「あと2ヵ月でTOEFLの点数をXX点増やさないとヤバい」といった状況では、さすがに問題集をやりたくなると思いますし、実際その方がいいでしょう。コンテンツ学習に取り組むのは、設定したゴールまで半年以上くらいは時間が残っているタイミングがオススメです。

横軸:繰り返しやすさ

話をマトリックスに戻しましょう。横軸は繰り返しやすさです。これはそのままの意味で、「同じコンテンツを何度も繰り返すことが現実的か」という視点です。

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なぜ繰り返しやすさが重要なのかというと、 これが英語力向上のキーを握っているからです。

一般にコンテンツ学習を語る場合、「意味は100%取れなくてもいいから、とにかく前に進め」ということが強調されます。これは英語細胞を育てるという意味ではたしかに正しいのですが、1つ落とし穴があります。実際はほとんど意味がとれていないのに、分かった気になってズルズル進んでしまうことがあるのです。

これでは、さすがに何の意味もありません。100%の意味をとる必要はないにしても、80%くらいは意味がとれなければ、それはもうインプットとは呼べないからです。こうなってしまうと、「教材に頼らず、独自の英語学習をする自分」に酔っているだけで、時間のムダです。特に、映画やドラマは映像に頼って意味を補うことができてしまうので、この落とし穴に落ちやすいです。注意してください。

この落とし穴を回避するための視点が、「繰り返しやすさ」になります。繰り返しやすければ、意味がとれなかった部分をフォローできるからです。

初回は勢いで押し切るとしても、2回目に進む前に意味がとれなかった文を精読するなり、単語は辞書を引くなりしておけば、2回目以降は意味を100パーセントとることができます。単語は7回繰り返せば定着すると言われてますから、7回繰り返すことが現実的なコンテンツなら、コンテンツ学習をしながら語彙力を増やすことも可能なわけです

ということで、どうせなら繰り返しやすいコンテンツを選んでおくことをオススメします。

では、繰り返しやすいコンテンツはどんなものかというと、「1単位が短いコンテンツ」です。音楽は良い例ですね。普通、1曲は長くても5分ですし、音楽なら何度も聞くことも全く苦になりません。

あと、ここは個人差が大きい部分だと思います。僕は漫画なら何回でも繰り返し読むことができますが、アニメは無理でした。しかし、同じアニメを何回も見れる人もいると思います。『のだめカンタービレ』で、のだめがアニメを繰り返し見てフランス語を学習する描写がありましたよね(人間の実例じゃなくてスイマセン)。

とにかく、各コンテンツのマッピングは僕が主観的にやっているので、むしろ軸の意味を理解した上で自分でマッピングすることが大事かと思います。

オススメのコンテンツ教材

で、個々のコンテンツ教材に関しては別のエントリーでディープに語っていきたいと思っていますが、とりあえず僕が最もオススメするのは漫画です。時間効率が良いし、10回くらい繰り返すことも余裕ですからね。

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特に、「日本語で読みまくった漫画」がオススメです。セリフが頭に残っているので、意味をとるのに苦労しません。それでも最初は大変ですが、これ以上にとっつきやすいコンテンツもないですからね。本当にオススメです。

他の視点

ちなみに、紹介した2つの視点以外にも、他にもいくつか考えておくべき視点があります。こんな感じですね。

  • コスト
  • 使われている英語がフォーマルなものか
  • 文字コンテンツなのか、音声コンテンツなのか
  • 音声コンテンツの場合、スクリプトがあるか
  • 翻訳や単語リストが用意されているか

このあたりも考慮して、自分にとってベストなコンテンツ教材を見つけると、英語の勉強が捗ると思います。ではでは、今回はこのへんで。

個別のコンテンツ教材に関するエントリー

続きも書いたので、よかったら読んでください!