ドラクエ11のレビューのレビューと、高齢化社会におけるエンタメ産業
2017-09-28

いきなりですが、ドラクエ11が発売されました。7/29に発売ですから、もう発売して2ヵ月経ちましたね。
ドラゴンクエスト11(Amazon)ただ、僕はまだやってません。というより、これからやるかも怪しいです。
僕はゲームを買うと、クリアまで寝食を忘れてプレイしてしまうタイプなんです。実際、ゲームでダイエットしたこともあります。飲まず食わず寝ずでプレイするので、痩せる(非推奨)。
そういう事情があるせいで、もういいおっさんで、仕事もある中、クリアまで数十時間かかるような大作のRPGにはちょっと手が出せないんですよね。ドラクエは8までしかやっていなくて、今は家にゲーム機すらありません。
ただ、やっぱり好きだし、興味があるんですよね。なので、ドラクエ11が発売されてから何度もAmazonの商品ページに通って、レビューを見てました。
そこで、ある面白いことに気がついたんですよ。これが今回のテーマです。つまり、「ドラクエ11のレビューのレビュー」をしたいと思います。ネタバレはないので安心してください。というか、僕もネタバレは避けてレビューをレビューしました。
なお、ドラクエ11にはPS4版とDS版がありますが、以降はすべてPS4版のレビューを対象としています。ご留意ください。
総論
まず、全体としての評価を見てみましょう。2017年9月29日時点で、ドラクエ11の評価はこうなっています(以下、特に表記がない限り、引用画像の出典は上記のAmazonリンクです)。

見て明らかなとおり、この作品の評価は高いです。★4と★5の人の割合は(235 + 968)÷ 1558 = 77% と、4人に3人はこの作品に高い評価をしています。
発売から2ヵ月が経過し、初期の購入者は既にクリアしていると考えられること、すでに1,558件のレビューが集まっていることなどを考えると、大勢が覆ることはないでしょう。
つまり、「ドラクエ11は名作だ」と市場は評価した、と言って問題ないと思います。
サクラ問題の検討
一応、「レビューにサクラがいるんじゃないの?」という疑問を考えておきましょう。Amazonのレビューはマーケティング上で重要な意味合いを持っていることもあり、サクラによるポジティブレビューの上積みが行われているかもしれません。
結論を先に言うと、ドラクエ11のレビューにサクラは存在しない/サクラの存在を考慮する意味はないと僕は考えます。
理由はシンプルで、ドラクエほどの大作RPGになると、たとえサクラを使ったとしてもレビューの大勢を変えられないのです。それは、スクエア・エニックスが2016年に出したもう一つの大作RPGであるFF15のレビューを見れば明らかです。

このように、大作RPGが市場の期待を裏切った場合、大量のネガティブレビューがつきます。
「期待を裏切られた」、「金を無駄にした」というネガティブなエネルギーは、「満足した」というポジティブなエネルギーよりもはるかに強く、人をレビューに向かわせるようです。これが何故かは不思議ですが、とにかく人間はそういうつくりになってます。
参考までに、怒りの長文レビューを見てみましょう。

これは抜粋ですが、レビューの全文はこの7倍くらいあります。これほどの文章能力を持った方が、一銭にもならないのにこれほどの長文を書くということは、それはもう、とてつもないネガティブエネルギーが生まれたということでしょう。
また、ポジティブレビューで大喜利(★5をつけながら、実はけなしている)が始まるというのもコケた大作RPGの特徴かと思います。

このレビューを1,559人もの方が役に立ったと考えているのは、なかなかシュールですよね。
以上、ff15に関する画像の出典はこちらです。
Final Fantasy 15(Amazon)当たり前の話ですが、ネガティブレビューにサクラは存在しません。そんなことをする理由がないからです。つまり、ネガティブなレビューをした人は実際に商品を体験した人であり、その内容は一個人の感想として真実であると考えられます(論理的かどうかはともかく)。
そのネガティブレビューの比率が、ドラクエ11とFF15ではあまりに違います。もしドラクエ11が市場の期待を裏切ったのなら、レビューがFF15と同じことになっているはずです。そうはなっていない以上、ドラクエ11は市場の期待に応えたと考えるしかありません。
また、もう1つの理由として、発売元であるスクエア・エニックスがサクラを使うような愚かな選択をするとは考えにくいということもあります。もしサクラを使い、そのことがバレた場合、ゲーム企業としてのブランドは地に堕ちます。また、今や主要な販売ルートの1つであろうAmazonとの関係もギクシャクするでしょう。リスクを考えると、サクラを使う理由がないのです。
というわけで、ドラクエ11のレビューは市場の評価を反映していると考えていいと思います。
ドラクエ11はなぜ名作なのか
で、面白いのはここからで、ドラクエ11が名作だと評価されている理由なんですね。つまり、レビューの中身です。ざっくりまとめると、こんな感じです。
- 王道のストーリーが最高。特に、ドラクエ1、2、3をプレイしている人にとって最高
- グラフィックがこれまでのドラクエよりも優れている
- コマンドバトルシステム、キャラクターボイス無しなど、ゲームデザインはこれまでのドラクエを踏襲しており、安心して遊べる
このレビューとか、その雰囲気を良く感じ取れると思います。

では、反対にネガティブレビューをつけている人がどんなことを言っているかというと、こんな感じです。
- 一本道のお使いストーリーで、子供じみている
- グラフィックは、とても現代の最新ゲームとは思えないレベル
- このご時世にキャラクターボイスのないゲームなど論外
このレビューなんか、いい味出てると思います。

一旦まとめると、賞賛派は「俺たちのドラクエの最新バージョンをありがとう」と思っており、批判派は「2017年に出すゲームとは思えないほど、あらゆる要素が古い」と言っています。
誤解してほしくないのは、これはどっちも正しいということです。評価する人の知識や期待値が違うので異なる評価になっているだけで、どちらかが間違っているという話ではありません。
グラフィックを比べてみる
例として、比較しやすいグラフィックを見てみましょう。まず、ドラクエ11はこちら。
とりあえず、これが従来のドラクエと比べてどれくらい進化しているのか比較してみましょう。ドラクエ10はオンラインゲーム、ドラクエ9は3DS向けという事情がありますので、13年前(2004年)にPS2向けに発売されたドラクエ8の映像がこちらです。
これと比較すると、ドラクエ11のグラフィックがはるかに進化しているのが分かりますよね。まあ、2作の発売時期は13年も離れており、その間にハードが二世代進化(PS2→PS4)していることを考えると、当然と言えば当然ですが。
では、もう一つの比較対象としてこれを見てください。「UNCHARTED 4」という、昨年にPS4で発売されたタイトルの映像です。
なんだこりゃって感じです。もう、リアル世界をゲームしているようにしか見えない。これと比べると、さすがにドラクエに分があるとは言えません(アニメ路線のドラクエと、リアル路線のこのゲームでは比較が難しいところはありますが)。しかも、これは1年前のゲームです。
つまり、ドラクエ11はPS4の最新ゲームとして見た場合、グラフィックが優れているわけではないのです。ドラクエ11のグラフィックがドラクエ8より優れていることは間違いないですが、他の最新ゲームと比較した場合、そこに優位性はありません。
誰が賞賛して、誰が批判しているのか
こうやって見てくると、ドラクエ11を賞賛している人と批判している人の像がボンヤリと浮かび上がってきます。
ドラクエ11を賞賛している中心層は、おそらく僕みたいなゲームを半ば引退していたドラクエおじさんでしょう。青春時代にドラクエ1-5あたりをプレイし、場合によっては8くらいまでやっている。9や10が出るころには社会人になっており、DSやオンラインゲームは敬遠。他のゲームもほとんどやらない。UNCHERTEDなんて、名前も聞いたことがない。そこで、久しぶりに出た据え置き機のドラクエをプレイしたら、青春時代の感動が蘇り大興奮。
多分、こんな感じだと思います。実際、僕の友人のS(ドラクエおじさん)はドラクエ11を絶賛していますし、僕に「お前も絶対ハマる」と言ってきました。間違いなくそうだと思います。
反対に、批判しているのはどういう人かというと、おそらく現役のコアゲーマーや、若い人でしょう。もっと言うと、最新のゲームにアンテナが立っていて、かつ、そのレベルのゲームをスクエア・エニックスに期待している人だと思います。
そういう人からすると、このご時世にキャラクターボイスがないことや、プレイヤーに選択肢がない一本道のストーリーを延々とプレイさせられるのは耐えられない。天下のドラクエだからこそ、現代のゲームの文脈を織り込んだ上で進化を見せてほしいのに、そっくり従来のドラクエの焼き増しを作った。これで9,000円はないだろう。こんな感じだと思います。
市場の評価の意味すること
ではここで、もう一度レビューの全体像を見てみましょう。

すでに検討したように、ドラクエ11を賞賛している人は、批判している人よりもはるかに多いです。つまり、日本には最新のゲームにアンテナが立っている人よりも、ドラクエおじさんの方がはるかに多いということになります。ゲーム市場の評価というのは要するに多数決ですから、多数派のドラクエおじさんの投票により、ドラクエ11は名作だということになっている。
なぜドラクエおじさんが多数派なのかは、説明するまでもないでしょう。日本は高齢化社会です。

(出典:人口ピラミッドのダウンロード)
このように、日本では25-45才くらいが人口の大きな割合を占めています(その上にも大きな層がありますが、ここはゲームをやらないとして除外します)。
この層に属するのは、要するにドラクエおじさん、つまり、「既にゲームの一線からは退いているけど、子供のころにプレイしたメジャータイトルの続編なら買うよ。ゲームデザインは変えないでね」という人たちです。
この層に比べると、今この瞬間にゲームにどっぷりハマっているであろう10-25才の層はすごく小さいですよね。
要するに、「変わるな」という消費者のほうが市場に多いから、変わらなければ売れるし、変わったら叩かれるってことなんですよ。
それって……
で、それってどうなのよって思うわけですよ。
ゲーム業界って、クリエイティブ産業の最たるものの1つだと思うわけです。そこに「変わるな。前と同じモノを作れ」という市場の強烈な圧力がかかっているのです。
しかも、悲しいかな、僕もその「変わるな」って言ってる人間の一人なんですよね。間違いなく、僕もドラクエ11をやれば涙腺が決壊して「ドラクエ11最高や! スクウェア・エニックス最高!」と絶賛すると思います。それって、「変わるな」っていうメッセージですからね。
僕は、自分が変化を歓迎する人間でありたい、変化を生み出すような人間でありたいと思っています。いや、少なくともそう思っているつもりだったんですけど、ことドラクエだけで見ると、僕は全く逆の人間なんだということが浮かび上がってきます。変わりゆくものはチェックすらせず(UNCHARTEDはこの記事を書く過程で知りました)、変わらないものは発売前からチェックして、おそらくこの後にお金を使う。
つまり、ゲーム産業に対して、僕はハッキリと「変わらないものが最高だ」と言っているわけです。自称「変化を歓迎する男」の僕としては、何とも言えない気持ちになります。
一応ビジネスマンっぽいことも書いておくと、日本のゲーム企業の舵取りはすごく難しい局面に置かれてるんだな、と思います。クリエイティブな集団が、「変わるな」という巨大なマーケットと向かい合わなければならないわけですからね。
もちろん、ゲームは同時に1本しか作れないわけではないので、変わらないゲームと、攻めの姿勢のゲームの両方を作ればいいし、どこの企業もそうしているんだと思います。
ただ、日本では今後も高齢化が進むことは確実で、新しいモノを受け入れてくれる人のパイは減る一方です。そんな中で、どうクリエイティブな人材を育成し、新しいモノを作り、それを収益化していくのか。これはゲーム企業に限らず、クリエイティブ産業に関わる人たち全員が抱えているテーマなのかなと思いました。部外者の妄想なので、間違っていたらスイマセン。
そんなわけで、色々と書いてきましたが、言いたいことは一つです。こんなエントリーも書いたことだし、ドラクエ11をやります。もう我慢できないので、今年中にはやりたい。
(追記)やりました。
さよならドラゴンクエスト - ドラクエ11のレビュー
